腱鞘炎ってピアニストがなるイメージですよね
実際、「出産して初めて手首(もしくは指)が痛くなりました。」という言葉をよく聞きます。
つまり肩こりや腰痛のように、「ほとんど誰でも経験している」たぐいのものではないんです。
腱鞘炎は主にピアノなどの指を使う楽器の演奏者が多く発症するものなのですが
最近はゲームのやりすぎでなったりもするようです(時代だわ~)
それと調理師、ウエイトレスなどの「手で重いものを持つ」仕事の人にも多いです。

お母さんの腱鞘炎を考えるために大事なことなので、
まずは「なぜ痛くなるのか」を考えてみましょう。
先ほど、腱鞘炎の起る事例を挙げましたが、そこにまず落とし穴があって
「お母さんの手に起こる”腱鞘炎”と言われる痛みですが、それ、本当に腱鞘炎ですか?」
ってことが、見落とされがちなんです。
それを突き詰めれば「赤ちゃんをお世話してるから」「腱鞘炎だから」仕方ない。
とはならない可能性があるんです。 そもそも、炎症って何なんでしょうか

炎症とは

生体の局所になどの諸種刺激が加わって起こる病変で,
発赤,はれ,発熱などが起こること.生体防御反応の一種   出典 朝倉書店栄養・生化学辞典について

咽頭炎とか結膜炎とか中耳炎とか、皆さんもいろいろと経験したことがあるはず。
つまり、赤くなって腫れて熱をもって痛みを発する状態になっているのが”炎症”状態で、
傷や細菌などの侵入に対する生体の防御反応なのです。

では、腱鞘炎って具体的に何の刺激に対する炎症なんでしょうか。
そもそも「腱鞘」とは指を動かすためについている「腱」(アキレス腱の腱ですね)を、
指の骨から離れないように骨と指をつないでいるトンネル状の鞘で、
指を動かすための腱はこのトンネルの中を滑って指を伸ばしたり曲げたりしています。

〇イラスト腱鞘炎

指を早く、長く動かし続けると「摩擦により」腱鞘とこすれた腱が損傷し、炎症を起こしてしまうんです。

だから、楽器の演奏者やゲーマーさんたちが腱鞘炎になってしまうのは理解できますよね。
普通の日常生活ではやらないレベルの速さや回数で指を動かしますから。

あれ、でもそうだとしたら「産後のお母さん」の腱鞘炎はなんで起こるんでしょう
ネット検索すると「産後の女性はホルモンバランスが崩れているから、、、と記載されていたりしますが
だったら調理師やウエイトレスたちの腱鞘炎は、、、?説明付けられないですよね。

この場合病院に行くと「手首の使い過ぎです。しばらく安静にしてください」と言われます。
そして言われたとおりにサポーターしてしばらく使わないでいると痛みは和らぎます。
痛む部位も似ているし、実際腱鞘炎のひとも「使わないでください」と言われます(使い過ぎで摩擦で損傷してますからね)
だけどかたやピアニストの「動かすぎ」にたいしてウエイトレスはそんなに手や指を動かしていないですよね。

そうなんです。ウエイトレスの手は「重いものを持ちすぎた負荷」のために痛くなった。んです。
それも痛いのは腱鞘ではなく、腱の付着部です。
そして産後のお母さんの手首の痛みも、これと同じ理由なんです。

赤ちゃんの抱っこと重い荷物の違い

重いものを持ちすぎて負荷がかかりすぎて痛める。
と聞くと、例えば介護の仕事の方とか、宅配業者さんとか、酒屋さん、米屋さんなども重いものを持つし
やはりみんな手首を痛めるのかな、、、と思いますが、意外にそうでもないんです。
なぜかというと、人間は
〇本当に重いものを持つときには、手首を使わない
からです。
重たい段ボールを持ち上げることを考えてみてください。
しゃがんで手をかけ、実際に持ち上げるのは股関節を膝関節の動きですよね?

米袋だってビールケースだって、
手首で持とうとする人はいません。良くて肘です。

ウエイトレスさんが手首を痛めやすいのは
「お皿は抱えることができないから」です。
だから、手首で支えるしかないんです。
回転ずしチェーンの店員さんが、大きなバットにお皿を入れて回収していくのを見たことがありますか?
あれなら手首は痛めません。
だけどウエイトレスさんのこの姿勢では、手首か肘を痛めるでしょう
(肘は単純で壊れにくい構造なので、まずは手首に来ます。)

簡単な説明をひとつ。

ここに重い荷物があります。 これを持ち上げるとき、
AとBどちらが楽に持ち上げられると思いますか?

これは簡単。Bですね 重心(重い荷物)は支点(足)の近くにあった方が より楽に持ち上げられます。 小学校で、こんな勉強しましたよね。

同じ重さのもの図のような状態で持ち上げるなら、Aの方がBより小さい力で持ち上げられます。
つまり、荷重がかかる部分が支点(地面と接している部分)より遠ければ遠いほど、それを支えるには大きな力がいるのです。

お母さんが赤ちゃんを抱っこする時、まず手を首の後ろの差し込んで首を支えますよね
この時の手指にかかる負荷が、ウエイトレスさんの手の使い方と同じだなんです。
「手首および指で重いものを支える使い方」をするから 痛くなってしまうんです。

だから、安心してください。
赤ちゃんの首が座る頃には手首の痛みは和らぎます。
赤ちゃんが寝がえりを打つようになるころには背中もしっかりしてきているので
お母さんたちは無意識のうちに肘を赤ちゃんの脇の下にくぐらせて片手でひょいっと抱っこしたりしています。
そのころには赤ちゃんの体重の負荷は手首ではなくて肘や肩甲骨にかかるようになっているので
気づいたら手首は痛くなくなっているんです。

負荷のかけすぎの手を休めるには、筋肉の着き方のバランスを整えるのが根本解決

赤ちゃん(特に首座り前)の抱っこで手首に負担がかかるのは理解できたと思います。

でもそれは「どうしようもない」としてほっておくしかないわけでもないんです。
筋肉がこるしくみでも解説している通り、使い方のバランスが崩れると、コリとハリが発生し
「コリが伸びなくて痛い」「ハリが縮めなくて痛い」という状態になってしまうんです。

具体的に言うと、手首を手のひら側に倒す動きばかり使っているので
手首を反らせる動きがしにくくなってしまいます。
赤ちゃんをだっこしている時は仕方ないとしても、手のひら側の筋肉がこって伸びにくくなってしまうと
抱っこしていない時でも手首をそることが難しくなってしまいます。

そして反らせるための筋肉はいつしか伸びて固まり、使いにくくなってしう(ハリになる)ので
動かそうとすると筋肉痛のような痛みを発したりするようになるんです。

サポーターして痛みを耐えるしかないのなら、セルフケアに挑戦してみる価値があると思いませんか?